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化血研「事業譲渡」の不条理

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過剰に「悪者」に仕立てられた。理事長を解任し、厚労省と熊本県が仕組んで「公益」を「私益」化した醜い足跡。

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40年間も国の承認と異なる方法で血液製剤を製造し、組織ぐるみで隠蔽していた一般財団法人「化血研」が10月19日、事業譲渡を迫る厚生労働省の軍門に下る。5月末のクーデターで早川堯夫理事長を解任したばかりの木下統晴・新理事長が、評議員会で譲渡案を説明し、承認を得る予定だ。

譲渡価格は約170億円、資産査定次第で上積みもありうる(上限は320億円)という。受け皿は、熊本県2%、地元企業連合49%、民間製薬会社49%という出資比率の「地元連合+大手製薬」のコンソーシアム。現行の一般財団法人は譲渡後もそのまま残り、化血研の内部留保金と譲渡対価を基にして、県や熊本大学などへ寄付・支援するというのがその骨格である。

加わる製薬会社は、明治グループ(旧明治製菓)傘下のMeiji Seikaファルマが最有力。事業譲渡に終始こだわった塩崎恭久厚労相(以下、肩書はすべて当時)が内閣改造前の7月、都内の講演会でつい口を滑らせた(後で発言修正)。内々に同社がワクチン・分画製剤・動物薬の3事業に関心を示し、化血研の「1900人の雇用維持」「熊本操業」「3事業一体」という譲渡条件に合致する。県と地元連合で「熊本」が過半を制することと併せ、国と県と製薬会社の「三者一両得」という触れ込みだろう。

■厚労省がアステラスに決め打ち

だが、一皮剝けば、醜悪な構図が浮かびあがる。まず化血研を過剰に「悪者」に仕立てて「本来なら事業免許取り消しだが、執行部総退陣と営業停止110日の処分にとどめるから、事業譲渡を呑め」と医薬品医療機器等法(薬機法)5条を盾に迫り続けた塩崎厚労省の超法規的な行政指導である。これは行政手続法で定めた行政指導と不利益処分のルールに抵触する疑いがある。

厚労省がにわかに強硬になったのは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の立入調査と第三者委員会の報告を受け化血研が宮本誠二理事長ら退陣と再発防止策を発表した2015年12月。須田俊孝監視指導・麻薬対策課(監麻課)課長が塩崎から「業務改善命令では済まない」と言われ、12月14日に「事業譲渡を含め体制の抜本見直しを早急に検討せよ」と豹変した。

年が明けて化血研に過去最長の業務停止110日(1月18日~5月6日)の処分が下ったが、この製法不整合で薬害例はなく、過去の不正事例と比べ格段に重い。塩崎は会見でその期間中に「(譲渡交渉の)結論を出していただく」と述べたから、処分は交渉を急がす兵糧攻めだったのか。

驚くことに、譲渡交渉を手配したのは厚労省医政局の大西友弘経済課長だった。昨年1月15日、霞が関の中央合同庁舎4号館共用123会議室で、大西のほか、熊本県の村田信一副知事、山内信吾健康福祉部健康局長、化血研の宮本理事長ら執行部、そしてアステラス製薬の畑中好彦社長ら幹部が集まって四者会談が開かれた。二川一男事務次官が05年の藤沢・山之内製薬の合併でアステラスが誕生した際に畑中とツーカーになったせいか、この段階で早くも譲渡先は決め打ちだった。複数企業との並行交渉は国も県も頭にない。

2月26日、やはり大西の呼びかけで同じ共用会議室で第二回目の四者会談が行われた。化血研は顧問であるTMIの顧問弁護士の同席を打診したが、厚労省は嫌がった。国の直接関与を見せたくなかったのか、厚労省を「キング」、熊本県を「クイーン」、アステラスを「エース」と符牒で呼ぶようになった。

だが、畑中アステラスは渋かった。当初打診された譲渡価格は純資産の10分の1以下だったらしい。動物薬など不採算事業の継承にも消極的だったから、リストラを恐れる県や化血研と折り合いがつかない。塩崎も内輪では「ワクチン事業で稼いできたんだから、厚労省だって(譲渡代金の配分に)口を出す権利はある」と言っていたが、さすがに「キングの取り分」を諦め、実質は同じでも形式上は別の組織に、と実より名に転じた。

■第二弾不正は「濡れ衣」で不発

4月8日、アステラスとトップ交渉を行ったが、畑中は譲渡条件の開きが大きすぎると交渉中止を申し入れた。皮肉にも同日の新聞でアステラスとの交渉が報じられたが、同社をつなぎとめたい厚労省のリークかもしれない。10日に国と県は化血研に交渉継続を求めたが、14日に熊本地震が発生、譲渡交渉どころではなくなった。

6月19日、バイオロジクス(生体由来の物質を使った医薬製品)の世界的な権威、早川が、宮本らの要請で窮地の化血研の助っ人として理事長に就任した。早川新体制のもとで事業譲渡は出直しとなる。

9月5日、先の四者のほか、化血研にワクチン製法の特許を提供するGSKも含めた五者会議が経済産業省108号室で開かれた。化血研の事業譲渡にGSKが難色を示したためだが(厚労省の説得で後に妥協)、厚労省側は大西のほか、福島靖正健康局長、森和彦審議官、浅沼一成結核感染症課長、伊澤知法監麻課長まで顔をそろえた。ところが、化血研が難色を示し、交渉再開に入れぬままGSKとアステラスは退席してしまう。

ここで空中分解しては、厚労省のメンツが立たない。10月4日、焦った厚労省事務方はバズーカを放った。化血研が日本脳炎ワクチン(エンセバック)も不正製造していたとして、事業免許取り消しも示唆する「新たな行政処分」の最後通牒を言い渡した。ところが、これがどうやら勇み足だった。早川は化血研の総力をあげて潔白を訴える弁明書を作成、18日に省に提出した。

製法の承認書と製造実態の不整合はなく、誤解を招きやすい表現や承認書の誤記などを事前に当局に相談していただけで、露骨な“濡れ衣”とも見える。現に1年経ってもいまだに「精査中」(監麻課)で、弁明書の反論にグーの音も出ず、処分に踏み切れないのがありありだ。故意に濡れ衣を着せたのなら、裁量権の乱用だろう。すれ違いに10月19日、アステラスは正式に交渉打ち切りを通告した。省内に設置された検討会「ワクチン・血液製剤産業タスクフォース」の提言と合わせて、譲渡に追い込もうとした国のもくろみは破綻した。

10月30日から仕切り直しとなる。早川を手強いとみたか、厚労省側は橋本泰宏審議官や医政局の中村博治総務課長らに、森・濱田松本法律事務所の野村修也弁護士が政治任用顧問として加わった。「行政指導とセットで事業譲渡を前提に許可取り消しをしなかったことがスタートライン」「いくら事業譲渡が困難と言われても、省が化血研を信じていないから納得できない」と行政手続法そっちのけで高圧的だった。

■二川次官自ら「ドン」と直談判

これに対し早川は、化血研が担う生体由来の製品群は、国民の生命を守る根幹であり、バイオテロやパンデミック(疫病)などの安全保障上も不可欠で、不採算の可能性も考慮しなければならないという正論で対抗した。欧米に比べ日本は集団防御のグランドデザインがない。そうした拠点は大手企業にはなく、化血研、阪大微研、北里研くらいしかない。ワクチンなどは自給自足すべき最優先製品であり、事業譲渡する適切な受け皿が日本にないなら、化血研をバイオロジクスのハブ(枢軸)にするべきでは、と提案した。が、厚労省も県も聞く耳を持たなかった。

今年3月7日、シビレを切らした厚労省は切り札を出す。二川次官が、12年まで8年間も理事長を務めた化血研のドン、船津昭信と都内のホテルで“ボス交”に及んだのだ。二川は早川にてこずり、化血研は事業譲渡を拒んでいるわけではないが、ハードルを高くしている、とこぼしたという。宮本前理事長の方針に戻るよう、早川を説得してくれ、と船津に頼んだとされる。

長年の不正隠蔽の“戦犯”とされる船津に、二川が直に頼むのはよほど追い詰められていたからだろう。コンプラもガバナンスもどこへやら、ただ官僚のメンツだけである。同期の香取照幸がGPIFで塩崎と対立、次官になれなかった(現アゼルバイジャン大使)だけに、大臣在任中に何とか片づけようと「忖度」したのだろう。早川排除クーデターはここらが起点に違いない。

では、熊本県は何をしていたのか。蒲島郁夫知事は上京して雇用維持を訴えたが、胃ガンを手術するなど病がち。裏では側近の田嶋徹知事公室長(現副知事)が化血研解体に備えて「公益目的支出」という“余禄”に目をつけていた。

化血研は公益法人改革で10年4月、財団法人から一般財団法人(一財)に移行していた。公益法人時代に税制優遇で貯めた純資産(公益目的財産額)は、経過措置として15年分割で毎年50~90億円を研究開発費に充てる公益目的支出計画を定め、ゼロにすることになっている。移行時にあった約1千億円の公益目的財産額の残額は17年3月期に520億円あるが、化血研が全事業をなくしたら、使い道はどうするのか。

県は昨年2月、公益目的支出を地元管理にする“便法”を打ちだした。事業譲渡後に(一財)化血研を組み換えて、新たに公益財団をつくり、譲渡の対価や内部留保金など化血研の資産を一括寄付・譲渡するというもの。村田副知事も「事業譲渡で数百億円の財産が化血研に残るのは国民の理解を得られない」と示唆している。本音は化血研OBの評議員を排除し、公益目的支出計画を県で管理することにある。

化血研の正味資産は1300億円を超すとみられ、それが地元の熊本県にタナボタで入るとなれば血眼になるのは無理もない。だが、本来、「公益」とは国民全体の益であり、県案はそれを地元で山分けにする「県益」にスリ替えることなのだ。

現に早川解任後、前副知事の村田と熊本大学薬学部長の甲斐広文教授が、化血研の役員選任・報酬諮問委員会委員に起用された。熊大薬学部出身の木下理事長は、HIV被害者団体の代表に「熊大に研究所を設置したい」とも述べており、母校に一括寄付したうえで、錦を飾って新研究所トップの座を確保する気なのだろうか。

■肥後銀含む7社に奉加帳

木下も公私の境目が緩い。早川解任時に携帯で指示を仰いでいた個人弁護士、千葉康博を即日で化血研の法律顧問に起用した。事業譲渡などの委託費用は別途支払われることになっており、クーデターは千葉が東京のTMI葉玉匡美、西村あさひ松嶋英機の両大物弁護士から仕事を奪って「金の卵」を得た一面もある。実は千葉は化血研の新理事、野口敏夫弁護士の娘婿でもあり、化血研は熊本の地縁血縁でがんじ絡めだ。このような新理事人事を評議員会はよく承認したものだ。木下は化血研労組の委員長を抱きこみ、クーデター時に組合員の了解なしで早川理事長辞任要望書を出させた。彼はMeiji Seikaファルマの元執行役員で、第三者委員会から理事、理事長になった部外者。創業者でもオーナーでもなく、職員や評議員から全権を委託されてもいないのに、化血研の運命を決めようとしている。Meijiがコンソーシアムに入れば、古巣との癒着批判を免れないだろう。

問題はまだある。2対49対49のコンソーシアム出資比率の土台になったのは、財務省から出向していた県企画振興部長、島崎征夫の原案だ。二川・船津会談後の3月、暗礁に乗り上げた譲渡の打開策として「化血研30%、地元連合30%、製薬会社40%」案を熊本経済同友会の末松賢代表幹事(TKU会長)などに持ちかけた。

その後、島崎は7月に金融庁監督局の銀行第二課長に栄進した。ぬるま湯の地銀の尻を叩く花形課長である。しかし本誌9月号「森長官の先兵『札付き銀行二課長』」で報じたように、島崎には30件もの“奇行”を記した内部告発の怪文書が出回り、島崎原案もヤリ玉にあがりかねない。

19日の評議員会を前に、84億円を出す地元連合の奉加帳に応じるのは肥後銀行、再春館製薬、TKU、えがおなど7社の名が挙がる。正味資産から現金同等物を引けば譲渡対象資産は650億円程度。それを170億円で買うから「お安い買い物ですよ」と島崎は肥後銀行の甲斐隆博頭取に勧めるのだろうか。譲渡価格を安く抑えたのは、地元企業をかき集めるためだろう。国も県もただ「長いものに巻かれよ」とゴリ押しするだけだ。

ところで木下の知恵袋、千葉は「くまモン」の顧問弁護士でもある。あのゆるキャラの裏に、かくも醜い暗闘が隠れていたのか。「メンツ」の厚労省と「カネ」の熊本県――職員は蚊帳の外で、化血研が担ってきた事業の価値が失われようとしているのに、この国の官僚は「公」の理念を忘れている。

(敬称略)
(この記事は経済総合(月刊FACTA)から引用させて頂きました)








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